コーヒーと風俗。

 

プレイ後、必ずコーヒーを入れてくれる客がいる。

 

眼鏡をかけて白髪も混じって、

話し方もしどろもどろで、若干障害を疑うようなレベルで語彙が少ない、

中年くらいだろうか、40~45歳ほどの男性。

 

酷く後傾した腰のせいで、内臓が前に出たような、ぽってり出たお腹と

みずみずしさを失った肌、

所々見られる体のシミとヘソの汚さが

老いを感じさせ、細身な姿は気弱な印象を持たせている。

 

彼は以前数ヶ月前はじめてあたしを指名し、

60分のプレイを40分ほどで終え、

ラブホ備え付けのコーヒーを煎れてくれた。

 

上記に記したような少しおかしな客だったし、

普通はたっぷりと時間まで体を愉しむ人ばかりなはずなのに

プレイをさっと終わらせてコーヒーなんて初めてで、強く印象に残っていた。

 

それに「これでおいしいコーヒー飲んで。」と1000円を渡してくれ、

とてつもない楽客だなと思いながらも

彼は一体何がしたいんだと疑問にも思っていた。

 

 

そんな彼があたしを本指名として

再会したのが昨日だ。

 

風俗は言わずともわかると思うけども高額な値段だ。

あたしが在籍しているところは高級店ではないただの大衆店ではある。

 

(しかし経験や容姿に左右されず入店可能な上に大衆店では珍しい個室待機とオプションの高さなど、在籍キャストに対するサービスが強く、その上バックが格安ソープより多いのは、この店の強い特徴だと思う)

 

けれど、

プレイするのにどれだけ安くしたところで

45分オプションなしで最安値1万数千円くらいじゃないだろうか。

 

普通は男性はいろんな女性と関わりたいとの本能故に

嬢もその日その日で変えてたりするもので

本指名の取得は結構難しい。

 

彼は一見、お金があるようには見えない。

昨日はオプション料からしても、2万5千円くらい料金を支払っていると思う。

 

相変わらず会っても語彙はなく

同じ言葉を繰り返していたり

手マンもキスも下手で

女性経験の少なさを露呈していた。

 

時折見せる悲しそうな顔と

指輪のない細い指が

中年独身者の寂しさを際立たせ、

あたしの母性を擽った。

 

1日がっつき系の男達に

体を触られくたくただったあたしには

とても楽で休まる相手だったばかりに

どうして彼は風俗にくるんだろうと

そんなことをぼんやりと考えていた。

 

今回もまた早目にプレイを終え

さっとシャワーを浴びてから

ラブホ備え付けのコーヒーを煎れ始めた。

 

部屋いっぱいにコーヒーの匂いが充満し

ケトルの水が沸騰する音、お湯を注ぐ音、

静かに作業は行われ、目の前に湯気の立ったコーヒーがすっと出された。

 

今回も熱かった。

舌が火傷しそうなくらい。

 

でも美味しかった。

たかが格安ホテルの備え付けの

どこにでもあるようなコーヒーだが

シャワーを浴びたあとだからなのか

今日も1日働いた体の筋肉が緩んだからか

コーヒーはとても美味しく

喉を通り、体をあっためた。

 

時間は刻刻と迫ってる中

残すわけにはいかないなと飲み干すあたしと

時々目を合わせながら、ゆっくりとコーヒーを飲む彼。

 

彼はさみしいんだろうか。

なぜあたしなんだろうか。

いつも彼は1人なんだろうか。

 

多く語らない彼に

あたしも何も聞く事はなく

時間は経ち、ホテルを出る。

 

今回も部屋を出る前に、握らせる1000円。

「これでおいしいラーメンでも食べて。」

 

部屋で渡す金の目的は普通ひとつしかないのに、異例だ。

 

あたしは、本当に悪いことをしているんだろうか。

体を売るというこの仕事は、

本当に悪く言われなきゃならないのか。

 

彼にとっては少なくともお金をかけるほど、価値を持ったあたしとの時間。

 

彼に笑顔を見せるあたしは汚いのか。

 

金に毒されたあたしには

それ以上考えを深める事は困難で

何も知らずに待つ恋人の待つ家に帰る。