何も

苦しい。

中絶が、こんなにも苦しいと思わなかった。

たしかに、つわりは辛かったし

産める状況じゃなかった。

でも、あたしはまた、ひとりぼっちだ。

お腹に、いたんだもんね。

もうひとり、家族が。

なんだろう、この孤独感。

なんなんだろう、この虚無感。

どうしてなんだろうね。

どうして、産めなかったんだろうね。

好きな人との子じゃなかったけれど

でもどうして、

好きな人じゃなきゃ

いけなかったんだろうね。

ほんとにだめだったのかな。

ベッドで横たわるあたしをずっと見てて

涙を流してくれた彼は

あたしを愛してくれてる人なのに、

本当に、だめだったのかな。

たくさん腕に貼られた注射後のテープ。

まだ少し、ずきずき重く痛む。

麻酔を打った後は、覚えてなかった。

気がついたら、終わっていた。

手術台の下にベットリとついた血が

その悲劇を物語って

子は、どこにも見えなかった。

妊娠がわかって、たった1週間。

こんな呆気なく終わって

こんな呆気なくいなくなった。

ベッドでは何も考えられず

トイレでは血の塊を落とし、吐き気。

他の人がいるにも関わらず

待合室ではかなり、泣いた。

中絶を、舐めてた。

術前処置の後に倒れたことも

たくさんの針を腕に刺されたことも

酷い悪阻も

術後のあとの気持ち悪さや痛みも

帰ってからも続く下痢も

薬の副作用で起こる痛みも

子を殺してしまった痛みも

想像を絶した、絶望だった。

いまはまだ病院にいるのだろうか。

それとももう、捨てられてしまったのだろうか。

いなくなったお腹は

どことなく冷たいかんじがした。